洛西タイムズ

洛西タイムズ2009年1月号

医療法人 緒方医院  院長 緒方 伸好

【頭痛】

 頭痛について頭痛を初めて体験されますと、脳の異常ではないかと心配なさる方が多いようです。しかし、実際に病院を受診して検査を受けていただきますと、脳に異常が見つかる可能性はおおよそ10人に1人以下です。ただし重大な病気が隠れている可能性は勿論ありますので、むやみに心配ばかりしているより、まずは脳神経の専門医を受診してみてください。頭痛の原因で多いのは片頭痛と緊張型頭痛です。片頭痛の場合は比較的若い頃から頭痛持ちという自覚がある方が多く、頭痛が起こってもまたかという感じで、あまり心配されないケースも多いのですが、近年特効薬も普及しておりますので、改めて医療機関を受診していただく価値があります。

 逆に、緊張型頭痛は中高年になってから初めて自覚する場合が多い病気です。脳に異常のある頭痛の代表的なものとしては、くも膜下出血、髄膜炎、慢性硬膜下血腫、そして脳腫瘍があげられます。くも膜下出血では突然発症する激しい頭痛を、また髄膜炎では高熱と繰り返す嘔吐を伴うのが特徴です。慢性硬膜下血腫は比較的に軽い頭部外傷(転んで頭を軽く打った、かもいに頭をぶつけたなど)の後、数週間をかけて徐々に頭痛が強くなることが多いようです。

 脳腫瘍による頭痛は明け方に強くなるという特徴を持つことがあります。いずれにしろ頭痛持ちの人でも普段と違う頭痛を自覚した場合は、頭部CTやMRIなどの検査を受けた方が良いでしょう。特にくも膜下出血の場合は、本格的に脳の動脈瘤が破裂する前にマイナーリーク(=僅かな漏れ)と言ってちょろちょろと血液がもれる場合があり、なかなか発見が難しいことが指摘されています。大きな出血を起こすとたとえ手術が成功しても、今なお半数近くの方が死亡したり寝たきりになる怖い病気です。もちろん頭痛に対して一度検査をして異常がなく、同じような頭痛がおこった場合は必ずしも検査を繰り返す必要がない場合もありますが、判断に迷うようなら是非専門医に相談されることをお奨めします。

洛西タイムズ2009年3月号

医療法人 緒方医院 院長 緒方 伸好

【貧血にご注意】

「貧血をおこした」「貧血ではないか」、こうした訴えで受診される方が結構おられます。最初に注意して頂きたいのは、いわゆる「貧血」と言いましても、実は二種類の全く違った病気を含んでいるということです。本当の「貧血」は血液の中の酸素を運搬する赤血球やその中にあるヘモグロビンというたんぱく質が減ることによって起こるもので、実際に血液の赤味が薄くなり採血によって診断がつきます。

 ひどくなると動悸、息ぎれなど、酸素運搬能力の低下による症状を引きおこします。若い女性では生理過多や過度のダイエットによる鉄不足などが原因となることが多いのですが、中年以降の男性や閉経後の女性が検診などで急に貧血を指摘された場合には、たとえ貧血の程度が軽くまた自覚症状がなくとも、胃がんや大腸がんの可能性もあります。後者の場合には、かかりつけの医療機関で腫瘍マーカーを含んだ血液検査の再検や胃や腸の内視鏡検査の必要がないかどうか相談されることをお薦めします。

 もう一つは、いわゆる「脳貧血」でこれは一時的になんらかの原因によって脳を栄養する血流が少なくなり、眩暈やふらつきをおこし、ひどい場合には転倒したり意識を消失したりする場合を指します。その多くは起立性低血圧のように、体調不良、気候変動などが引き金となって自律神経のバランスが悪くなり一時的な血圧低下が起こることが原因となるのですが、脳梗塞・脳腫瘍・てんかんなどが原因になることも稀にあります。程度がひどい場合や何回も症状を繰り返す場合には、脳神経を専門とする医療機関で頭部CT検査やMRI検査の必要がないかどうかをご相談ください。

洛西タイムズ2009年5月号

医療法人 緒方医院 院長 緒方 伸好

【メタボ時代の診療所の役割】

 『特定健診』と言われる健診が始まっておよそ一年になります。特徴として最近の健診や人間ドックでは以前より血糖値・コレステロール・血圧の基準が厳しくなってきて、異常を指摘されるケースが増えて来ています。健診や人間ドックなどでこれらの異常を指摘された場合でも、軽度の異常であれば薬を使うのではなく、まずは食事療法と運動療法を組み合わせて体重を減らし、腹囲を減らす努力をすることが重要です。

 ただ自宅では実際に血糖値やコレステロールを測ることは難しいので、そういった場合はお近くの診療所を受診して相談されることをお薦めします。その際に検査結果や体重、腹囲の記録は是非ご持参ください。軽い異常であれば、3~4ヶ月に一回、採血・尿検査などをおこなって、体重減少や腹囲の減少が実際に検査成績の向上につながっていることを確認することが、食事・運動療法のモチベーションを維持するためにも重要です。たとえ軽度でも異常があれば保険診療の範囲で検査は可能ですから、例えば「特定健診や人間ドックで検査値に異常があり、食事運動療法中なので3ヶ月に一回ぐらい血液検査をして欲しい」と具体的に頼めば快く引き受けてもらえる診療所が殆どです。診療所の役目も時代とともに変わりつつあります。

 最近の考え方では脳卒中や心筋梗塞の疑いがある時には、かかりつけ医に連絡して相談するのではなく、すぐに直接救急車を呼んで治療可能な病院に搬送すべきであるということになっています。なぜなら、症状が出てからいかに短時間で搬送し治療を受けるかで後遺症や死亡率が変わってくるというデータが出ているからです。ですから、へたにかかりつけ医に往診を頼んだりするのはいたずらに大切な時間を浪費する点で既に時代遅れになりつつあります。

 現在の『かかりつけ医』の役目はその前段階の高血圧・糖尿病・高脂血症などを治療することによって、心筋梗塞・脳卒中になりにくくすることですし、さらには、メタボ(=メタボリック・シンドローム)の段階で食事・運動療法を定期的な血液・尿検査などでサポートし、薬が必要になる前の段階で食い止めることがより重要になっているのです。

洛西タイムズ2009年7月号

医療法人 緒方医院 院長 緒方 伸好

【新型インフルエンザは怖くない?】

 今回は新型インフルエンザの騒動について考えてみたいと思います。マスコミの煽るような報道の仕方に苛立ちを覚えた方も多いのではないでしょうか? マスコミの本質はニュース性の確保であるため、「善か悪か?」「危険か安全か?」などに関しては、どちらか極端に傾くほど注目を集め視聴率を高めることができます。結果として国民に過大な不安を与えマスク騒動、修学旅行取り消し騒動など過剰な反応を引き起こしたともいえましょう。ただし、情報を正確に中立の立場で伝えようとすると、曖昧でわかりにくい表現になり、ニュース性が損なわれます。これがマスコミの本質的な問題点です。

 行政も決して手抜きをしていたわけではありません。むしろがんばりすぎた結果、当初、強毒性インフルエンザに対する対応をそのまま今回のインフルエンザにあてはめ、一部で過剰な対応がなされました。その一方で検疫をすりぬけた感染に関しては無防備でした。結果として行政の対応は後手後手にまわり、関西で発生した最初の患者を見つけたのは、行政の指示に逆らって遺伝子検査を要請した第一線の診療所で働く名もない医師の勘と機転でした。『対応が画一的になりやすく、融通がきかない』、これが行政の問題点です。

 新型インフルエンザウイルスは少なくとも現時点では、妊婦や重い持病のある方を除く大部分の人には脅威ではありません。しかし今後どうなるかは予測不可能です。先日のWHO(世界保健機構)ハイレベル協議の報告は以下のとおりです。「新型インフルエンザウイルスについて唯一はっきりしていることは、何もはっきりしていない、ということである。どの程度広がり、定着するのか、今後、病原性が変化するのか、南半球でどうなっていくのか、何もわかっていない。」不確実性、これが医療の本質的な問題点です。しかし医師はその不確実性の中でベストを尽くす他ないのです。『常に最新の確かな情報を手に入れて冷静に対処する』、現在われわれができることはこれだけです。

 インターネットが普及した現在、医師も一般の人も現在では現在進行形の医療情報に関して言えばさしたる情報格差はないと言えるかもしれません。しかし得られた情報を今までの知識や経験と照らし合わせて的確に判断すること、医師の優位性があるとすればこの点でしょう。持病をお持ちの方などは特に、普段からかかりつけ医とよくご相談くださることをお薦めします。

洛西タイムズ2009年9月号

医療法人 緒方医院 院長 緒方 伸好

【医者の気持ち】

 紹介状は貴重です!

 紹介状(=医療用診療情報提供書)を拝見すると医師は安心します。なぜなら、少なくとも前の医療機関で、主治医の先生とある程度信頼関係を築いて来られた患者様だと判断されるからです。そして、医師と患者様の信頼関係こそが適切な医療の大前提となります。この紹介状やレントゲン、CT、MRIフィルムなどの画像資料、さらにできればお薬手帳などは、診察室の中に入ってからではなく、是非受付でお渡しになってください。患者様を診察する前に、持病や飲んでいる薬などが頭の中に入っていると中身の濃い診察ができるからです。紹介状、それは信頼へのパスポートです。

 前の担当医の悪口はあまり・・・

 診察室に入るなり前の担当医の悪口をとうとうとしゃべり続ける方が、まれにですが、いらっしゃいます。それを聞いて医者はどう思うでしょうか? 『前医と違い、自分には信頼を寄せている』と、その患者様を信用するでしょうか? それはちょっと無理ですよね。『うちの診療で何かしら気に入らないことがあれば、同じように悪口を言って、また別の医療機関を探すことになるのでは・・・?』正直なところ、そのように感じてしまうことが殆どで、警戒心が強くなるあまり率直な意見も言いにくくなってしまいます。これは決して患者様の利益にはつながらないのです。

 逆に、「今の主治医が病気で休診されているので、半年間だけ先生のところで薬をお願いします。」と紹介状を持参され、その先生への感謝の気持ちがこちらに伝わる患者さんもいらっしゃいました。実際に評判のいい先生でしたので、私は勿論喜んでお引き受けしました。こういう場合には最初からスムーズに信頼関係が成立します。

 やっぱり嬉しい感謝の言葉!

 医者が患者様のために尽力することは当たり前のことです。でも「おかげさまで助かりました」という言葉をかけていただくと、単純ですが本当に嬉しいものです。どんなにハードな仕事でも、結局は患者様の感謝の言葉が明日へのエネルギーとなって続けられているのだと思います。

洛西タイムズ2009年11月号

医療法人 緒方医院 院長 緒方 伸好

【進化・共存するウィルス

 新型インフルエンザが本格的な流行期にはいりマスコミを通じて重症の患者さんも報道されています。今後さらにウィルスが強毒性に変化していくのでしょうか? ウィルスには宿主である生きた細胞の中でしか増殖できないという特徴があります。宿主となる動物や臓器の種類、増殖のスピード、感染力などは、ウィルスの種類により異なります。

 インフルエンザウィルスの特徴は感染力が強く、増殖スピードがはやいことですが、爆発的な増殖力で細胞を破壊するにもかかわらず死者が比較的少ないのは多くの場合、感染部位が鼻咽頭粘膜などに限られているからです。実は、新型ウィルスが戦略を変更して肺・心臓・脳などに幅ひろく増殖し、本当の強毒性に変化するメリットはほとんどありません。なぜなら短期間で重症化させて宿主を殺してしまっては、宿主の移動機会が減り感染の機会がかえって少なくなります。さらには宿主の数が減少しますので結局自分の首を絞めることになるのです。

 強毒性を持つということはウィルスの本来の目的ではなく、強い増殖能をもつことの副産物にすぎません。もちろん今後、新型インフルエンザが強毒性に変化する可能性は否定できませんが、それは必然ではなく偶然の結果と考えた方が自然だと思います。自然淘汰という進化のフィルターを通じて、新型インフルエンザウィルスも人類との共存の道を探っているのです。

洛西タイムズ2010年1月号

医療法人 緒方医院 院長 緒方 伸好

【時は最高の名医】

 早いもので、この前正月を迎えたばかりだと思っているうちに、もう年末になってしまいました。私も年齢を重ねるにつれて、一年経つのがだんだん早くなっていくのを実感するようになって来ました。一方で医者の立場からすると、『時間』は病気を診断する上で非常に重要なツールだと言えます。たとえばおなかの風邪(ウイルス性胃腸炎)と他の重要な胃腸の病気との区別はその症状の時間経過が決め手になります。ウイルス性胃腸炎の場合は、腹痛・嘔吐・下痢・発熱などの症状がおこりますが、その程度も組み合わせもさまざまで、他の胃腸の病気でも似たりよったりです。

 ただ、ウイルス性胃腸炎にほぼ共通しているのは、発症して数時間で症状がピークに達して、通常48時間以内には改善をし始め、一週間以内に症状は殆ど消えてしまうということです。一方、胃潰瘍、大腸がん、潰瘍性大腸炎などは一週間では良くならないので、診察の際に一週間で症状が治らない場合や、薬を飲んでも発熱や腹痛が逆にひどくなる場合には検査が必要だという説明をします。「咳」といったありふれた症状でもそれが3日前から始まったならばまず通常の「かぜ」を考えますし、3ヶ月前からはじまったのならば結核や肺がんなども当然考える必要があります。

 これ以外にも症状の時間経過が診断の決め手になる病気は非常に多いので、診察の際には訴える症状がいつから始まったのかを正確に医師に伝えることが重要です。また、検査で軽い異常が見つかった場合、3ヵ月後、半年後に再検しましょうという指示が出されることがあります。いわゆる「経過観察」の指示ですが、これは放っておいても大丈夫という意味ではありませんので、くれぐれも誤解しないように注意が必要です。言い換えれば、医師は一回の診察で正確な診断をくだすことが困難な場合には、『時間』という『最高の名医』に診断をゆだねることになるわけです。

洛西タイムズ2010年3月号

医療法人 緒方医院 院長 緒方 伸好

【うちの血圧計は壊れている?】

 「うちの血圧計は壊れているんじゃないか。測るたびに数字が違うんですよ。だから先生が測ってください。」時々外来でこのようにおっしゃる患者様がいらっしゃいます。実際に診察室に血圧計を持参して自分で測ってもらい、私が測る数字と比較してはじめて血圧計が壊れていないことに納得されます。(※注1)

 「人間の血圧は個人個人決まっていて、いつ測ってもあまり変わりない」と、このような誤った考え方を持っている方が案外多いのにはびっくりします。血圧は自律神経のバランスにより常に変動しており、当然測るたびに違う数字がでます。試しに、起床後、食前食後、入浴前後、外出前後という風に一日十数回測っていただくと、血圧の数値が場合により40~50以上も大きく変動することもあるのがわかります。大事なことはその数字に一喜一憂することではなく、平均がどうかということと、どんな時に血圧が上がるのかを自覚することです。

 病院で測って血圧が正常だったのに脳卒中をおこした方をよく調べてみると、深夜や早朝に高い血圧を示す方が多いことが最近注目されています。ですから、脳卒中を予防したければ家庭でこまめに血圧を測ってそれを記憶するのではなく、記録して病院に持参することが大事なのです。(※注2)

※注1:稀にではありますが、本当に誤差が大きく信頼性の低い家庭用自動血圧計もありますので、心配な場合は持参していただいて、医院の水銀血圧計と比べてみるのが一番です。

※注2:診療所によっては、血圧記録用のノートをお渡ししておりますので、それを利用していただいても良いでしょう。

洛西タイムズ2010年5月号

医療法人 緒方医院 院長 緒方 伸好

【その痛みは有益か有害か?】

 「人類はこんなに進化したのに、なぜ痛みや苦しみという原始的で不快な感覚を未だに持ち続けなければならないのか」・・・ふと、こんな疑問を持つことはありませんか? しかし実際には、もし痛みを感じることができなければ、人間は長生きすることが難しいのです。痛みは体の限界を教え、安静や治療の必要性を命じます。つまり、痛みは性能の良いブレーキの役割を果たしているとも言えるのです。ただし、切り傷の痛み、虫歯の痛み、胃の痛みのように、ある部位の危険を知らせる有益な痛みもあれば、痛み自体が一番のストレスとなる有害な痛みも数多く存在しています。

 人類は直立歩行を始めたことで手が自由に使えるようになり、今日の文明を築きました。しかしそのかわりに大きな代償を払ったとも言えるでしょう。直立姿勢を保つために背骨や膝の負担は過大になり、年齢を重ねると多くの人が慢性的な背骨や膝の痛みを訴えるようになったのです。これらの痛みは有益か有害か? 排除すべきか我慢すべきか? ひと昔前までは、これらの慢性痛は殆ど治療の手段がなく、『痛みは我慢するもの』と考えられていた時代がありました。しかしながら、現代の医療の中では、痛みは危険信号としてのみ活用し、その後の痛みはできるだけ排除すべき対象と考えられています。

 薬の内服やシップ、理学療法などを続けても軽快しない慢性痛や激しい痛みには、ペインクリニックでの神経ブロック治療が役に立つ場合があります。慢性痛や激しい痛みにおいては、神経が有害な刺激を脳に伝達するという役割を通り越して、神経そのものの変化が起こって過敏になっていることも多く、その神経の状態を元に戻すことができれば痛みが消失する可能性も十分にあるわけです。もちろん、神経ブロック治療も万能ではありませんが、従来なら我慢するか手術するしか手立てが無かった痛みに対しても有効な場合があります。

 辛い痛みで我慢に我慢を重ねているような方は、一度ペインクリニックにご相談ください。